風采ようす)” の例文
髪は塵埃ほこりまみれてしらけ、面は日に焼けて品格ひんなき風采ようすのなおさら品格なきが、うろうろのそのそと感応寺の大門を入りにかかるを、門番とがり声で何者ぞと怪しみ誰何ただせば
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
過日このあいだの方はあれから入来いらしって、あの翌晩おひとりで、そう可笑いんだよ玉ちゃんが大変岡惚して、風采ようすのいゝ方ねえ、あら姉さんも、何だね厭に気を廻すよ、だって風采が好って
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
ちいっぽけな旦那だんなで、黒ちりめんの羽織で、お刀がチョコンと突っぱって、その風采ようすのみっともなさってったら、あたくしが吹きだしますとね、その人が後を振りむきましたのですよ
旧聞日本橋:08 木魚の顔 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
一体、東京から来る医者を見ると、いずれも役者のように風俗みなりを作っておりますが、さて男振おとこぶりいいという人も有ません。然し、この歯医者ばかりは、私も風采ようすが好と思いましたのです。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
最初は双方とも変り果てた姿ながら、あんまり風采ようすが似通っているままに、編笠の中を覗いてみたくなったものらしかったが、さて近付いてみると双方とも思わず声をかけ合ったのであった。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)