静脈じょうみゃく)” の例文
旧字:靜脈
肉はないけれども骨太の上に静脈じょうみゃくのグリグリしている、男性的にせた高夏の手が、酒のせいか重い物をじっと持ちこたえている時のようにふるえていた。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
が、眼のまわりのかさを見ても、何か苦労をこらえている事は、多少想像が出来ないでもない。そう云えば病的な気がするくらい、米噛こめかみにも静脈じょうみゃくが浮き出している。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ものを食うたびに薄く静脈じょうみゃくのすいてみえているコメカミが、そこだけ生きているようにビクビク動いた。
雪の夜 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
胸の中から二本のくだが出て、この人工心臓につながっている。一方は赤くぬってあり、もう一つは青くぬってある。赤い方は、きれいな血がとおる動脈どうみゃく、青い方は静脈じょうみゃくだ。
三十年後の東京 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そして絃をかきならしながら、押しせまるような叙唱じょしょうで、諧謔かいぎゃくをテラスへむかって投げあげる。と同時に、かれのひたいの静脈じょうみゃくは、力演のためにふくれあがっているのだった。
いや、この辺は、水の静脈じょうみゃく動脈だった。大小無数の川が、河内平かわちだいらで落ち合っている。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこから静脈じょうみゃくを流れているどす黒い血が流れ出る、それを愛子が見ているうちに気が遠くなって、そのままそこに打ち倒れる、そんな事になったらどれほど快いだろうと葉子は思った。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
弥右衛門は、手頸てくびの青い静脈じょうみゃくを撫でていった。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
無数の川が、静脈じょうみゃくのように縦横に走っている。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)