静寂しづけさ)” の例文
旧字:靜寂
顔を洗ふべく、静かに井戸にちかづいた自分は、敢てかしましき吊車の音に、この暁方あかつきがたの神々しい静寂しづけさを破る必要がなかつた。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
この静寂しづけさとこの果敢はかなさの疾く来れかし。
偏奇館吟草 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
葉かげの水面みのも銀色ぎんいろ静寂しづけさる。
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
淡い夜霧が田畑の上に動くともなく流れて、月光つきかげが柔かに湿うるほうてゐる。夏もまだ深からぬ夜の甘さが、草木の魂をとろかして、天地あめつちは限りなき静寂しづけさの夢をめた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
各々の疲れた頭脳あたまは、今までの華やかな明るい室の中のさまと、この夜の村の静寂しづけさの間の関係を、一寸心に見出しかねる…………と、眼の前に加留多の札がチラつく。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
何処までも恁うして歩く! 此美しい夢の様なことばは華かな加留多の後の、疲れて※乎ぼうつとして、淡い月光つきかげと柔かなもやに包まれて、底もなき甘い夜の静寂しづけさの中にとろけさうになつた静子の心をして
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)