青蚊帳あおがや)” の例文
いいえ、でも、その青蚊帳あおがやに写した幻燈のような、ぼやけた思い出が奇妙にも私には年一年と愈々いよいよはっきりして参るような気がするのでございます。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
秋の半ばになってもまだ四辺を深く木立が囲んで居るので、油断のならない程、大粒な縞蚊などが絶えないので夏のまま、矢張やは青蚊帳あおがやを釣るのであった。
かやの生立 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
暁闇ぎょうあんはぎのしずれに漂っていた。小蝶が幾羽いくつもつばさを畳んで眠っていた。離家はなれの明けてある戸をはいってゆくと、薄暗い青蚊帳あおがやの中に、大きな顔がすっかりゆるんでいた。
上目瞼は薄黒い皺のまま大きな眼球の上に高まって、鼻柱と頬骨との間の眼下の筋肉の著しいたるみは、丁度、色のせ切った青蚊帳あおがやの古い端片れをげた様に見えた。
かやの生立 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)