零砕れいさい)” の例文
電車会社の慰謝金はなぜか百円そこそこの零砕れいさいな金一封で、その大半は暇をとることになった見習弟子にくれてやる肚だった。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
昔から今日に至るまで、あらゆる本は、何んな零砕れいさいな本でも、小冊子でも、すべて人間生活の状態の『あらはれ』である。従つて、そこからも多くの知識が得られる。
小説新論 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
同時に多くのイズムは、零砕れいさいの類例が、比較的緻密ちみつな頭脳に濾過ろかされて凝結ぎょうけつした時に取る一種の形である。形といわんよりはむしろ輪廓りんかくである。中味なかみのないものである。
イズムの功過 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
零砕れいさいなものすらも捨てるに忍びなかった。他にはほとんど誰も購う者がないので、いつもわずかばかりの金子を払ったに過ぎない。幾十年かの後、このことは興深き昔語りとなるであろう。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
零砕れいさい体を為さず。慚愧々々。猶余は、この遠足中、特に日本女子服装の不完全なるを切に感じた。常服を改良するか、然らざれば少くも旅行服について、特別の意匠を用いねばならぬ事と思った。
女子霧ヶ峰登山記 (新字新仮名) / 島木赤彦(著)
自分はこの点について彼女にもっと具体的な説明を求めたけれども、普通の女のように零砕れいさいな事実を訴えの材料にしない彼女は、ほとんど自分の要求を無視したように取り合わなかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何もかも移り変って行ってしまっている中に——ことに震災以後は時には廃址になったかとすら思われるくらいに零砕れいさい摧残さいざんされている光景の中にそうした遠い昔の静けさが味わわれるということは
日本橋附近 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
零砕れいさいの事実を手繰たぐり寄せれば寄せるほど、種が無尽蔵にあるように見えた時、またその無尽蔵にある種の各自おのおののうちには必ず帽子をかぶらない男の姿が織り込まれているという事を発見した時
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)