鉄車てっしゃ)” の例文
旧字:鐵車
「あぶない。出ますよ」と云う声の下から、未練みれんのない鉄車てっしゃの音がごっとりごっとりと調子を取って動き出す。窓は一つ一つ、余等われわれの前を通る。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
茶色のはげた中折帽の下から、ひげだらけな野武士が名残なご惜気おしげに首を出した。そのとき、那美さんと野武士は思わず顔を見合みあわせた。鉄車てっしゃはごとりごとりと運転する。野武士の顔はすぐ消えた。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
見界みさかいなく、すべての人を貨物同様に心得て走るさまを見るたびに、客車のうちにめられたる個人と、個人の個性に寸毫すんごうの注意をだに払わざるこの鉄車てっしゃとを比較して、——あぶない、あぶない。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)