鉄物かなもの)” の例文
旧字:鐵物
蒼味がかッた連翹色れんぎょういろで、葉といえば、鼠みともつかず緑りともつかず、下手な鉄物かなもの細工を見るようで、しかもたけいっぱいに頸を引き伸して
あいびき (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
彼は鉄物かなもの屋の店さきを素通りして、町内の鳶頭かしらうちをたずねた。鳶頭はあいにく留守だというので、彼はその女房とふた言三言挨拶して別れた。
半七捕物帳:03 勘平の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
五百の里親神田紺屋町の鉄物かなもの問屋日野屋忠兵衛方には、年給百両の通番頭二人があつて、善助、為助と云つた。此日野屋すら相応の大賈たいこであつた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
鉄物かなものは、べて包むことにした、雨は小止みになったり、また大降りになったりする、大降りのときは、油紙の天幕の中央が、天水桶のように深くなって、U字形に雨水の重味で垂れ下る
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
おもんちゃんはかんの高い子だったので、みんなから狂気きちがいあつかいにされて、ある日大門通りの四ツ角で、いたずら子供たちにとりまかれ、肌ぬぎになって折れた鉄物かなものを振って悪童を追いかけていた。
私一個としては、むしろ柩の鋲を取引における最も死に果てた鉄物かなものと見做したいのであった。けれども、我々の祖先の智慧は直喩にある。そして、私のような汚れた手でそれを掻き紊すべきではない。
鉄物かなものだから堅いには相違ないが、何だか働きがないようだね」
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
余は一礼して「先生、何うも狐猿の毒は恐ろしい者ですネエ」医者は合点の行かぬ顔で「エ、狐猿とは」余「貴方に掛かって居ます虎井夫人の怪我の事です」医者「アア、あれですか、あれは何でも古釘で引っ掻いた者です、錆びた鉄物かなものの傷は何うかすると甚く禍いを ...
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
四谷の酒屋播磨はりま屋伝兵衛、青山の下駄屋石坂屋由兵衛、神田の鉄物かなもの屋近江屋九郎右衛門、麻布の米屋千倉屋長十郎の六人を召し捕って、一々厳重に吟味すると
半七捕物帳:28 雪達磨 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その参詣のうちに、日本橋北新堀の鍋久という鉄物かなもの屋の母子おやこ連れがあった。鍋久は鉄物屋といってもおもに鍋釜類をあきなう問屋で、土地の旧家の釜浅に次ぐ身代しんだいであると云われていた。
半七捕物帳:49 大阪屋花鳥 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)