遺身かたみ)” の例文
そして母は一昨日の朝、嫌な人生のお芝居を遺身かたみに残して呉れました。実は母は一昨日死んだのですけれども、どうしても死んだとは思えません。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
死人の遺身かたみかと思われる、其の色は緑がかって聊か黒味を帯びて居る、随分世に類の多い髪の毛だ
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
しかしかつて娘が折ッてくれた鶴、香箱、三方のたぐいはいまだに遺身かたみとして秘蔵している。
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
「どうも見ていられねえよ、子が親の遺身かたみを恋しがるというのは人情だからなあ」
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
お念仏は父母の遺身かたみでもあればまた、わたくしの浮世の身の守りでもござります。どうして唱えずに居られましょう。
取返し物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
何でも濠洲へ出稼ぎして居る自分の弟が死んで遺身かたみとして大金を送って来たと云う事で、其の金を以て主人の屋敷を買い取り、此の塔の時計室の直下すぐしたに在る座敷を自分の居間にして
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
「それもお前、普通の遺身かたみと違って、生皮なんだろう、それをお前、欲しがって離れられねえというのは人情だろうじゃねえか、人情を無視して、それを引裂こうなんて、どうしても罪だなあ」
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
宗祖には他に弟子も無いのだからダルケの宗門は断絶し、今はこの寺だけが遺身かたみにのこっているわけである。
褐色の求道 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
待酒を醸む場合に、女はまずその最初の杯の一杯を、やしろいつき祭ってある涙石に捧げた。それは祖父の山の祖神が命終のとき持てりしものの唯一の遺身かたみの品とされていた。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「姉の遺身かたみのものだがね。あたしより何だかおまえさんに着て貰った方が——」
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
主人はこの頃はかなり妹に対して姉に向っていたと同じ気持になれて来たと言って、姉の遺身かたみとして大事に取って置いた持ちものをぽつ/\妹に取出して譲って呉れるようになりました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
いくら探しても遺身かたみの品におまえにやるものが見付からないので困った。そうそう伯母さんが東京に一人いる。これは無くならないでまだある。遠方にうすくぼんやり見える。これをおまえにやる。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)