軒灯けんとう)” の例文
旧字:軒燈
かどの車屋の軒灯けんとうを明らかに眺めて来たばかりの彼の眼は少し失望を感じた。彼はがらりと格子こうしを開けた。それでもお延は出て来なかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
暗いのに軒灯けんとうのない家が並んでいるので、燐寸まっちをすっていちいち表札の文字をすかしすかし、探さねばならなかった。
夏の夜の冒険 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
乏しい軒灯けんとうがぽつんぽつんと闇に包まれている狭い露路ろじを、忍ぶように押黙って二十歩ばかり行くと
白蛇の死 (新字新仮名) / 海野十三(著)
軒灯けんとうこわされているのもあった。裏門のところには、騎馬巡査や銃剣を持った兵隊がいた。私は子供の頃、まぐろの刺身を御飯のうえにのせてそれに湯を注いで食べるのが好きだった。
生い立ちの記 (新字新仮名) / 小山清(著)
中年の女、角帽、湯屋ゆや帰りの紳士などが数人私たちの前を通り過ぎました。あたりは真っ暗ですけれど、それでも、遠くの軒灯けんとうの光で、私たちのいることは、通り過ぎる人にも分かります。
現場の写真 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
辻永の姿はと見ると、向うの軒灯けんとうの下にころがるように駈けている黒い影がそうであろうと思われた。私は彼の名を呼びながら追い駈けたがとても追いつけなかった。
地獄街道 (新字新仮名) / 海野十三(著)