蹂躪ふみにじ)” の例文
自身が満足をするために、亡家の御名も、四隣の迷惑も、蹂躪ふみにじろうとするも同じではあるまいか。わしとて、君家のかかる末路に対して断腸だんちょうの思いはある。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
水らしい水とも思わぬこの細流せせらぎ威力ちからを見よと、流れ廻り、めぐって、黒白あやめわかぬ真の闇夜やみよほしいまま蹂躪ふみにじる。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
百合や鳳仙花や水葵や、草芙蓉ふようなどの美しい花は、大概無残に蹂躪ふみにじられて、わけても私が大事にしていた冬薔薇の花は名残りもとどめず地に散り敷いて居りました。
西班牙の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
自分が卑しい側女などになったのも、蝙也という男がいたからである、——世に優れた良人おっとの妻として、正しい女の道を生きよう、そう考え憧憬あこがれていた乙女の夢を、無慙むざん蹂躪ふみにじったのは蝙也である。
松林蝙也 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)