趺座あぐら)” の例文
「あらッ!」とお宮は、入って来るからちょうど真正面まともにそっち向きに趺座あぐらをかいていた柳沢の顔を見てはしゃいだように笑いかかった。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
というや、今までの豪傑は急に狼狽ろうばいしはじめた。露出した膝頭ひざがしらを気にして、衣服きものおおわんとしたり、あるいは趺座あぐらをかいた足を幾分かむすび直し、正座の姿に移らんとした。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
高い階段はしごだんを上ってゆくと、柳沢はあのさい体格からだに新調の荒い銘仙めいせんの茶と黒との伝法でんぼう厚褞袍あつどてらを着て、机の前にどっしりと趺座あぐらをかいている。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
たとえば前年僕を訪ねて、なかなか元気よく議論したある青年があった。その挙動を見るとすこぶる傍若無人ぼうじゃくぶじんで、へやに入るやいなやいきなり趺座あぐらをかき、口角にあわを飛ばして盛んに議論する。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
柳沢はいつものとおり二階の机の前に趺座あぐらをかいていたが私たちが上っていったのを見て、笑うのは厭だというような顔をして黙り込んでまじまじひとの顔をみまもっていた。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)