譎詐きっさ)” の例文
欺かるるもの、欺くものと一様の譎詐きっさに富むとき、二人ににんの位地は、誠実をもって相対するとごうも異なるところなきに至る。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
鴉片戦争もたけなわとなった。清廷の譎詐きっさと偽瞞とは、云う迄もなくよくないが、英国のやり口もよくないよ。
鴉片を喫む美少年 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
呉の譎詐きっさに乗ぜられて、彼に呉王の位を贈り給い、また九錫の重きをお加え遊ばしたのは、わざわざ虎に翼をそえてやったようなもので、ほうっておいたら呉は急激に強大となり
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
という欺誑ぎきょう譎詐きっさに満ちた休戦状でありまたまことに虫のいい盟約の申し込みでもあった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
しかして智識なきの性格は、俗儒ぞくじゅのいわゆる君子というべき、愚直すなきの国民を造るの恐れはありまするが、性格なきの智識は国民をして猾智かっち譎詐きっさを事とし、上下こもごも利をむさぼって
国民教育の複本位 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
つまりだまし討ちを恐れたからである。彼ら山上の麗人族は、信頼されない人種なのであった。譎詐きっさ、権謀、巧言、令色、こういうことは彼らにとって、朝飯前の仕事であった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そして、この代表者の意志とうごきの間を縫って、無数の人間——あるがままな人間のすがたが、譎詐きっさ、闘争、貪欲どんよくの本能に躍り、また犠牲、責任、仁愛の善美な精神をも飛躍させる。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
譎詐きっさ権謀けんぼうや、あらゆる醜い争闘は、むしろ、血のちまたよりは陰険でそして惨鼻さんびだ。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)