謂知いひし)” の例文
その術無じゆつなき声は謂知いひしらず母の胸を刺せり。彼はこの子の幼くて善く病める枕頭まくらもとに居たりし心地をそのままに覚えて、ほとほとつと寄らんとしたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
この恐るべき危機にひんして、貫一は謂知いひしらず自らあやしくも、あへすくひの手をさんと為るにもあらで、しかも見るには堪へずして、むなしもだえに悶えゐたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
鉄をつんざき、いはほを砕くのためし、ましてや家をめつし、人をみなごろしにすなど、ちりを吹くよりもやすかるべきに、可恐おそろしや事無くてあれかしと、お峯はひと謂知いひしらず心をいたむるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)