調達ちょうだつ)” の例文
細君の父が健三の手で調達ちょうだつされた金を受取って帰ってから、それを特別の問題ともしなかった夫婦は、かえって余事を話し合った。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
抽斎は目をみはった。「お前そんな事を言うが、何百両という金は容易に調達ちょうだつせられるものではない。お前は何かあてがあってそういうのか。」
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
右は早速調達ちょうだつに及んだけれど、桶はそのままになっていたのを、清葉が心付いて、いつか、女房が勘定を届けか何か、滝の家へ出向いた時、火事見舞に貰ったのが、まだ使わないで新しい
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
即座に調達ちょうだつ出来兼できかねます処から、予ての約束通り百両の金の抵当かたに一時女房お村を預けて置きました、それからようやく百両の金を算段して持参いたし、女房と証文を返してくれと申入れました処
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
二十四日の晩であった、母から手紙が来て、明二十五日の午後まかり出るから金五円至急に調達ちょうだつせよと申込んで来た時、自分は思わず吐息をついて長火鉢ながひばちの前に坐ったまま拱手うでぐみをして首をれた。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
従って彼は自分の調達ちょうだつした金の価値について余り考えなかった。さぞうれしがるだろうとも思わない代りに、これ位の補助が何の役に立つものかという気も起さなかった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分は金の調達ちょうだつを引き受けた。その時れは風呂敷包の中から一幅の懸物かけものを取り出して、これがせんだって御話をした崋山かざんじくですと云って、紙表装の半切はんせつものをべて見せた。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかし彼は自家の信用を維持するために誰にもそれを打ち明けなかった。従って彼はこの預金から当然生まれて来る百円近くの利子を毎月まいげつ調達ちょうだつして、体面を繕ろわなければならなかった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)