詠歎えいたん)” の例文
ましてや一たび酔うて今はめているというたぐいの旅人であったならば、深い詠歎えいたんなしにはて過ぐることができなかったろう。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
その詠歎えいたんを終りとして、私達は暗然と項垂れ合い、扨て私は窓の外へ目をらして、今にも空気になろうとする私の身体を感じつづけていた。
(新字新仮名) / 坂口安吾(著)
これに反して叙事詩は、主観によって事実を見、感情の高翔こうしょうした気分によって、歴史を詠歎えいたんしようとするのである。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
そうそう、あなたは何よりもセンティメンタリズムが嫌いだったわね。じゃもう詠歎えいたんはやめにして上げるわ。……
文放古 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「時にはなりぬ」だけで詠歎えいたんのこもることはすでにいった。佐保の宅というのは、郎女いらつめの父大伴安麿やすまろの宅である。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
故に詩を作ることはいつも「祈祷きとう」であり「詠歎えいたん」である。詩人は小説家のように、人間生活の実情を観察したり、社会の風俗を研究したりしようとしない。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
霍公鳥の鳴く頃になったという詠歎えいたんで、この季節の移動を詠歎する歌は集中に多いが、この歌は民謡風なものだから、何か相聞的な感じが背景にひそまっているだろう。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
いつか子爵の懐古的な詠歎えいたんに釣りこまれて、出来るなら今にも子爵と二人で、過去の霧の中に隠れている「一等煉瓦レンガ」の繁華な市街へ、馬車を駆りたいとさえ思っていた。
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いや、詠歎えいたんそのものさえも、すでに時代と交渉がなくなっていたと言ってもさしつかえない。
樗牛の事 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
即ちこの種の画家たちは、対象について物の実相を描くのでなく、むしろ主観の幻想や気分やを、情熱的な態度で画布に塗りつけ、詩人のように詠歎えいたんしたり、絶叫したりしているのである。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)