わだかまり)” の例文
姿もかたちも、世にまたかほどまでに打解けた、ものを隠さぬ人を信じた、美しい、しかもわだかまりのない言葉はあるまい。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そうして間も無く松太郎は辞し去り、事は穏便に治ったが、その時以来わだかまりが二人の間には出来たのであった。
高島異誌 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その間に何のわだかまりもなく、相手が外国人なるか自国人なるかの差までも消え失せるのである。
東西相触れて (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
腹に暗き鬼を生ずとしてある疑心のわだかまりがあったのも、お夏を一目見たばかりで、霧の散ったように、我ながらにつかまえ処もなくて済んだその時、今そこに婆さんの顔ばかりとなったのみならず
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これは大急ぎで走って来たからでござる。堤の真ん中を歩かずに、端ばかり選んで歩いたというのは、心にわだかまりがあったからで、他人に見られるのを恐れる人は、きまってこういう態度をります。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「さようなこと申しましたかな。ふうん。……いや、心にわだかまりとなっていることは、つい眠った時などに出るものと見えますのう。……細木永之丞というのは、わしの親友でな、同じ新選組の隊士なのじゃが、故あって、わしが討取った男じゃ」
甲州鎮撫隊 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)