薄菊石うすあばた)” の例文
まだ二十七八でせうが、薄菊石うすあばたの小男で、三十にも三十五にも見える不景氣さが、此男をひどく老實らしく見せるのです。
薄菊石うすあばたの五十格好の男のやうに、吊皮に揺られて居る老婆を傲然がうぜんと睥睨しながらふんぞり返つて居る方が、何れほど男らしいか分らないと思つた。
我鬼 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
その当時は、廿四、五だった、色白の、すらりと身長の高い、薄菊石うすあばたのある、声の好い、粋なおやすさんが、もう六十五、六になって、須磨子さんの京舞を見ている。
大橋須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
それは薄菊石うすあばたの顔に見覚えのある有馬という士の声らしく、乱暴者を壁に押えつけながら、この男さえ殺せば騒ぎはしずまると、おいごと刺せ、自分の背中から二人を突き刺せ
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
と云ったのは、その中の、絹商人だという三十八、九の、顔に薄菊石うすあばたのある男であった。
猿ヶ京片耳伝説 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
伽羅大盡の貫兵衞は、薄菊石うすあばたみにくい顏をゆがめて、腹の底から一座の空氣を享樂きやうらくして居る樣子でした。
薄菊石うすあばたのある顔が、その男の心の裡の冷淡さを示して居るやうに、老婆に席を譲るべき屈竟の位置にあるに拘はらず両足をフンぞり延ばしたまゝ、平然と坐つて居る。
我鬼 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
伽羅大尽の貫兵衛は、薄菊石うすあばたの醜い顔をゆがめて、腹の底から一座の空気を享楽している様子でした。
「彦兵衞——薄菊石うすあばた巾着切きんちやくきりは誰だ。早い方がいゝ。今から手を廻したら、金が戻るかも知れねえ」
「ところで、彦兵衞。その巾着切の薄菊石うすあばたを、お前は心當りがありさうだが——」