薄氷うすごおり)” の例文
吸いとられるような眼つきで、薄氷うすごおりの張った池のおもてをジッと見つめている。頬も唇もすき透るように蒼くなって、まるで蝋人形のようなようすをしていた。
見ると、薄氷うすごおりを踏んでいるのだった。いつの間にか、彼は河原に降り、加茂かも川の東岸を歩いていたのである。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おめき叫ぶ声、射ちかうかぶらの音、山をうがち谷をひびかし、く馬の脚にまかせつつ……時は正月二十一日、入相いりあいばかりのことなるに、薄氷うすごおりは張ったりけり——
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
といいながら一人の奴の帯を取ってぽんと投げると、庚申塚を飛越して、うしろの沼の中へ、ぽかんと薄氷うすごおりの張った泥の中へ這入った。すると右の手を押えた奴は驚きバラ/\逃げ出した。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
源右衛門も伝五も、袖をつらねて、次へすべった。そしてあとのふすまを閉めきると、やがて橋廊下の方に、薄氷うすごおりでも踏みやぶってゆくような冷たい跫音あしおとを消して行った。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御手洗みたらしに張った薄氷うすごおりを割って、小柄杓こびしゃくに水をすくったのである。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
朝霜のうえに、田の薄氷うすごおりのうえに。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)