薄月夜うすづきよ)” の例文
薄月夜うすづきよである。はっきりとも見えぬ水のくまに、何やらざぶんという物音がする。獺が鮭でも取るのであろう、という句意らしい。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
では、ふくよかな女らしさに欠けているかというと、包まれている中に、薄月夜うすづきよの野の花みたいににおうものがある。ほんのりと、楚々とある。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
月が悲しげに砕けてかれる。或る夜はまた、もの思はしげに青みがかつた白い小石が、薄月夜うすづきよの川底にずつと姿をひそめてゐるのがのぞかれる。
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
ある薄月夜うすづきよに、あまたの仲間の者とともに浜へ越ゆる境木峠を行くとて、また笛を取り出して吹きすさみつつ、大谷地おおやちというところの上を過ぎたり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
しのび足に君を追ひゆく薄月夜うすづきよ右のたもとの文がらおもき
みだれ髪 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
百合ゆりや人待つかど薄月夜うすづきよ
自選 荷風百句 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
白樺しらかばの茂った谷の底から、何者か高い声で「面白いぞう」とよばわる者がある、薄月夜うすづきよつれも大勢あったが、一同ことごとく色を失って逃げ帰った、という話が出て来る。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
はなしはふたたびあとへかえって、ここは波明るき弁天島べんてんじま薄月夜うすづきよ——
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)