落款らくくわん)” の例文
さうしたら、鼻の尖つた、眼張りの強い、くちびるをへの字に曲げてゐる顔が、うす暗い雲母摺きららずりうしろにして、いよいよ気味悪く浮き上るだらう。落款らくくわん東洲斎写楽とうしうさいしやらく……
動物園 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
たとへば落款らくくわんとか手法しゆはふとか乃至ないし紙墨しぼくなどと云ふ物質的材料をたくみ真似まねたものになると、その真贋を鑑定するものはほとんど一種の直覚のほかに何もないと云ふ事に帰着してしまふ。
鑑定 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
しかしこれはとがめずとも好い。わたしの意外に感じたのは「偉大なる画家は名前を入れる場所をちやんと心得てゐる」と言ふ言葉である。東洋の画家には未だ嘗て落款らくくわんの場所を軽視したるものはない。
侏儒の言葉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)