花柳界かりゅうかい)” の例文
近頃、本物と寸分違わない様な玩具の紙幣が、花柳界かりゅうかいなどで流行しているそうだ。それは誰かから聞いたっけ。アア、そうだ。君がいつか話したんだ。
二銭銅貨 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
現代の社会に花柳界かりゅうかいと称する前代売色の遺風がそのまま存在している間は三味線もまた永続すべき力があろう。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
母の生い育ったのはただ色町と云うばかりで、いずこの土地とも分らないのが恨みであったが、それでも彼は母のまぼろしに会うために花柳界かりゅうかいの女に近づき、茶屋酒に親しんだ。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
詩人啄木ので知られている函館の立待岬たてまちざきから、某夜あるよ二人の男女が投身した。男は山下忠助と云う海産問屋の公子わかだんなで、女はもと函館の花柳界かりゅうかいで知られていた水野よねと云う常磐津ときわずの師匠であった。
妖蛸 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
いずこの花柳界かりゅうかいやカフェーにもかならず一人や二人女たちのうわさに上る好色こうしょく老爺ろうやがあるが、しかしこの羅紗屋の主人ほど一見してくその典型にはまったお客も少ないであろう。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)