艶消つやけ)” の例文
ねえ田郷さん、円廊の扉際には、外面艶消つやけしの硝子で平面の弁と凸面の弁を交互にして作った、六弁形の壁灯がありましたっけね。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
艶消つやけしの珠玉のような、なまめかしい崇高美に、私は一眼で魅了されて仕舞った。従妹も伸び上って私の手許てもとの画面に見入った。そして、「まあ。」と嘆声をもらした。
鶴は病みき (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
と恭順は言いながら、黒く塗った艶消つやけしの色も好ましい大きな文箱ふばこを奥座敷の小襖こぶすまから取り出して来た。その中にある半紙四つ折りの二冊の手帳を半蔵の前に置いて見せた。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
パジョオルがいう——「一匹から上になると、哺乳器ってやつをあてがわにゃならん。薬屋で売ってる、ああいうやつさ。長くは続かねえ。母親が不便ふびんがるだよ。もっとも、艶消つやけしにしとくだ」
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
表面がなめらかな肌ざわりを持つ艶消つやけしの紙で、他に類を持ちません。古くは書物の用紙として悦ばれました。また地袋じぶくろを張るのにも好まれます。品位のある紙であって、忘れ難い和紙の一つであります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
と云いながら艶消つやけしの厨子ずしへ入ったまゝ懐へ入れて帰りました。
談話はなし艶消つやけしにしてもらいたいネ」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
酒をやめてから容貌ようぼうも温厚となり、あの青年時代のきらびやかな美しさは艶消つやけしとなった代りに、今では中年の威がついて、髪には一筋二筋の白髪も光りはじめて来ている。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
清「結構なお厨子だ、艶消つやけしで鍍金金物めっきがなものたいしたものだ」