膝行にじ)” の例文
「おちやん、お召しや。」と、千代松は目顏で知らして、病人にさからふなと注意したので、お駒は澁々病床近く膝行にじり寄つて、お辭儀をした。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
権六は主膳の近くへ膝行にじり寄る。そうすると主膳の声がいっそう低くなって、権六のほかは何人なんぴとにも聞き取れない声で
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
頭取はそこらに蝦蟇かへるのやうに蹲踞つくばつてゐる人達を掻き分けるやうにして前へ膝行にじり出した。
膝行にじり入るようにそこへ通った二人の使者は、仮面めんのように、怖い顔をして坐っている内蔵助の顔を仰ぐと、今にも、何か大きな叱咜しったを浴びせられるような気に打たれて、はっと、心をました。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その時日頃融川と親しい、林大学頭が膝行にじり出たが
北斎と幽霊 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
膝行にじるようにして寄って来て
顎十郎捕物帳:08 氷献上 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「もうなう。」と、竹丸は小ひさな聲で言つて、千代松の背後うしろへ隱れるやうに膝行にじり寄つた。いつもの低い聲でねち/\と話し始めてゐた千代松は
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
竜之助は面、籠手をはずした後、虎之助の前に膝行にじり出でて言葉をひくうして申し入れると、島田虎之助は
寅吉と呼ばれた棟梁らしい男は、駒井の傍近く膝行にじり寄って、頭を下げました。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)