胸算用むなさんよう)” の例文
博士は胸算用むなさんようをしながら、やけ洋杖ステツキりまはした。洋杖ステツキが何かに当つたやうに思つてよく見ると、それは電信柱であつた。
逢はれないものだと思つてゐれば、不思議に逢ふ事が出来るものだ。しかし皮肉な運のやつは、さう云ふおれの胸算用むなさんようも見透かしてしまふかも知れないな。
好色 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
長火鉢に寄っかかッて胸算用むなさんように余念もなかった主人あるじが驚いてこちらを向く暇もなく、広い土間どま三歩みあしばかりに大股おおまたに歩いて、主人あるじの鼻先に突ったッた男は年ごろ三十にはまだ二ツ三ツ足らざるべく
忘れえぬ人々 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
僅か金十二兩かしてあるゆゑ流れになりてうり拂へば金四十五兩はまうかるなり其四十五兩の金子は皆己が懷中ふところいれ帳面面ちやうめんづらは筆の先にてよきやうにごまかし置んとの胸算用むなさんよう夫と云も平生文右衞門は一文二文の袖乞そでごひ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
だが、実をいふと、カアネギイはその折にはもうヘツケル教授の事も自分の眼の前にゐる客の事も忘れて、鉄の値段でも胸算用むなさんようしてゐるらしかつた。