あへ)” の例文
たま/\榛軒が事あつて父の未だ起たざるに出で去ることがあると、蘭軒は甘んじて塵埃中に坐して、あへて三子柏軒をして兄に代らしめなかつた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
〔譯〕英氣は是れ天地精英せいえいの氣なり。聖人は之を内にをさめて、あへこれを外にあらはさず。賢者は則ち時時之をあらはす。自餘じよ豪傑の士は、全然之をあらはす。
米国はすなはげふの国なり。始めよりあへて国際間の武威をろうせず。而して各国之をおそる。何が故に畏るゝ、曰く、国民の元気充溢し、百般の業の上に其真勇をればなり。
想断々(2) (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
わが目の中にも、わが心の底にも、たゞアヌンチヤタあるのみなりき。觀客は劇場を出でたり。されど皆未だあへて散ぜず。こは樂屋の口に𢌞りゆきて、歌女が車に上るを見んとするなるべし。
そして院主をしてあへて財を投じて此稀有けう功徳くどくを成さしめたのは、實に師岡氏未亡人石が悃誠こんせいの致す所である。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)