絶念あきら)” の例文
『いえ、只今の御話を伺へば——別に——私から御願する迄も有ません。御言葉に従つて、絶念あきらめるより外は無いと思ひます。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
だが、うしても絶念あきらめられなかつたと見えて、羽織の紋所には、捨てられた女五人の名前を書き込んで平気でそれをてゐた。
どうしたといふんだらう餘りだわとむか/\するが、又、仕方無いわと絶念あきらめて財布の底を探ると十錢銀貨が一つあるので急に輕燒を燒かうかと思ひ立つ。
俳諧師 (旧字旧仮名) / 高浜虚子(著)
もしかその作物の出来栄が悪かつたら、自分は才能のないものだと絶念あきらめて、これからは一切創作に筆を取らない約束で、書いて貰ひたい。
噫——瀬川君は自分の素性を考へて、到底及ばない希望のぞみ絶念あきらめてしまつたのでせう。今はもう人を可懐なつかしいとも思はん——是程悲しい情愛が有ませうか。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
初めの間は心から腹も立てるし殆ど命がけに嫉妬も燒いたが此頃はもう根氣負をして仕方無いわと絶念あきらめてゐる。十時頃になつて本當に眼が覺める。それからお茶を沸かしてお茶漬を食べる。
俳諧師 (旧字旧仮名) / 高浜虚子(著)
と、その男は幾らか気味も悪かつたので、一冊だけですつかり絶念あきらめて、また以前もとのやうに墓へ土をかけて置いたさうだ。
今度といふ今度こそは絶念あきらめた、自分はもう離縁する考へで居る、と書いて呉れと頼んだ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
これではとても遣切やりきれないといふので資本もとでの手薄な書肆ほんやはつい出版を絶念あきらめて了ふ。お蔭で下らない書物ほんが影を隠して世の中が至極暢気のんきになつた。
みんなあのが持って生れて来たのだぞや。どんなことが有ろうとも、私はもう絶念あきらめていますよ。それよりは、働けるものが好く働いて、夫婦して立派なものに成ってくれるのが、何よりですよ
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
富豪かねもちロスチヤイルドだんが熱病でひどく苦しんだ事があつた。ちやうどだんが七十五歳の折の事で、としも齢だから老人自身はとても助からないものと絶念あきらめて
「そやから僕もこの頃ぢや代議士なぞすつかり絶念あきらめてしまうて、画家として立たうと思つてるのや。」
その折象はお役人の手抜りを直訴ぢきそしようとまで思つたらしいが、役人といふものは chacanas よりも長い爪をもつてる事を思ひ出したので、すつかり絶念あきらめてしまつた。
女は美人に生れると、悲哀かなしみが多い、「芸術」が必要な所以ゆゑんだ。醜女に生れると絶念あきらめなければならぬ、「哲学」が無くてはならぬ訳である。哲学は蛇と共に女の一番嫌ひな物である。