紛々ごたごた)” の例文
長火鉢のそば徒然ぽつねんとしていると、半生はんせいの悔しかった事、悲しかった事、乃至ないし嬉しかった事が、玩具おもちゃのカレードスコープを見るように、紛々ごたごたと目まぐるしく心の上面うわつらを過ぎて行く。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「放っておくがいい。俺はお上の御用を勤めていりゃいいんだ。お町が可哀想だと思って乗り出したが、——入費は嵩んでも苦しゅうない——てな事を言う武家の紛々ごたごたなんかに首を突っ込むのは嫌だ」
しかし無事に暮したのはわずか一年ばかりで、良人の両親や兄弟までが地方から出て来て同居するようになってから、家内には紛々ごたごたが絶えず、暮しむきも店をしまわなければならぬまでに窮迫して来た。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
跡は両側の子供が又続々ぞろぞろと動き出し、四辺あたりが大黒帽に飛白かすり衣服きもの紛々ごたごたとなる中で、私一人は佇立たちどまったまま、茫然として轅棒かじぼうの先で子供の波を押分けて行くように見える車の影を見送っていた。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
此処で又紛々ごたごたと入乱れ重なり合って、腋の下から才槌頭さいづちあたま偶然ひょっと出たり、外歯そっぱへ肱が打着ぶつかったり、靴のかかと生憎あいにく霜焼しもやけの足を踏んだりして、上を下へと捏返こねかえした揚句に、ワッと門外もんそとへ押出して
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)