紅裙こうくん)” の例文
ところで、立向って赴く会場が河岸の富士見楼で、それ、よくこの頃新聞にかくではないか、紅裙こうくんさ。給仕の紅裙が飯田町だろう。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
緇衣しい紅裙こうくんとは京都の活ける寶物である。この二ツのものがなかつたなら現在の京都は正に冷靜なる博物館と撰ぶ處なきに至るであらう。
十年振:一名京都紀行 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
そこにはかの『なも』『えも』のなまりを売り物にする紅裙こうくんたちが、縦横にうごめき始めるからである。
名古屋スケッチ (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
女は年のころ十七、八で翠袖すいしゅう紅裙こうくんきぬを着て、いかにも柔婉しなやかな姿で、西をさしてしずかに過ぎ去った。
世界怪談名作集:18 牡丹灯記 (新字新仮名) / 瞿佑(著)
目前に加茂川の清い流れのせせらぎを耳にしつつ、どうやら眼の覚めて、用意の控えの座敷に直ったとき、にこにこ、ぞろぞろ這入ってきた紅裙こうくんさんたちの年頭としがしらが言う
夏日小味 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
閙殺だうさつす、紅裙こうくん六幅の霞
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
蓮歩れんぽを移す裾捌すそさばきにはら/\とこぼるゝ風情、蓋し散る花のながめに過ぎたり。紅裙こうくんじやくたましひつつむいくばくぞや。
当世女装一斑 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
三年を出でずして或会社のこれを買ひ取りて倶楽部クラブとやらになせしより木母寺の境内再び紅裙こうくんのひらめくを見ず、梅若冢うめわかづかの柳を見ても黄昏一片麋蕪雨こうこんいっぺんびぶのあめ柏如亭かしわぎじょていが名吟を思ふべき人もなくなりたり。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)