立罩たてこ)” の例文
公爵と師父ブラウンとが再び最前の細長い鏡の間に戻った頃には、水辺や岸の柳に早や黄昏の色が立罩たてこめていた。
町の中には険呑けんのんな空気が立罩たてこめて、ややもすれば嫉刀ねたばが走るのに、こうして、朧月夜に、鴨川の水の音を聞いて、勾配こうばいゆるやかな三条の大橋を前に、花に匂う華頂山、霞に迷う如意にょいヶ岳たけ
濃き闇は此処をも立罩たてこめ候ふが、女の点ずる瓦斯のに、秘密の雲破れて、余の目の前には忽如として破れたる長椅子、古びし寝台ねだい、曇りし姿見、水たまれる手洗鉢てあらひばちなぞ、種々さま/″\の家具雑然たる一室の様
夜あるき (新字旧仮名) / 永井荷風(著)