硬張こはば)” の例文
石川孫三郎の顏は硬張こはばりました。何と言はうと、どう誤魔化ごまかさうと、この惡戯いたづらは、屋敷内に住んでゐる者の仕業しわざでなければなりません。
達二はどこまでも夢中で追ひかけました。そのうちに、足が何だか硬張こはばって来て、自分で走ってゐるのかどうかわからなくなってしまひました。
種山ヶ原 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
ところが、阪神の香櫨園の駅まで来ると、海岸の方から仮面めんのやうに表情を硬張こはばらせて歩いて来る修一とぱつたり出会つた。
六白金星 (新字旧仮名) / 織田作之助(著)
「たいへん、寒い……」と、てれ隱すやうに日本語を呟いて、女は硬張こはばつた作り笑ひをそのつやのない顏に浮べた。
ハルピンの一夜 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
顔中の皮膚が硬張こはばつて、つぺたが妙に突つ張りでもするやうな不愉快な気持でゐた。
イボタの虫 (新字旧仮名) / 中戸川吉二(著)
と、老人は口ごもりつつ、仮面のやうに、硬張こはばつた顔を取り外して
大凶の籤 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
平次はくだけた調子でさう言つて、ひどく硬張こはばつて居る相手の女の表情をほぐしてやらうとするのでした。
平次の調子が改つたので、主人峰右衞門も思はず引入れられるやうに、硬張こはばつた表情をします。
平次は多勢の眼に迎へられて、明るい店に入りながら、一應八方へ氣を配つて見ましたが、唯もうこの事件に顛倒てんだうしてしまつた人達の、硬張こはばつた顏からは、何んにも讀み取りやうはありません。
姉に似ぬ美しい顏を硬張こはばらせて、そのつぶらな眼をしばたゝくのです。
蒼白い顏を硬張こはばらせて、何んにも言はうとはしません。
妙な睨み合ひ、——空氣は次第に硬張こはばるばかりです。
お幾は少し顏を硬張こはばらせます。