瞠目だうもく)” の例文
これ実に愕心がくしん瞠目だうもくすべき大変転也。歴史の女神はかつて常に欧洲の天を往来して、いまほとんど東洋の地に人間あるを知らざりき。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
いはんや僕の手巾ハンケチを貰へば、「処女として最も清く尊きものを差上げます。」と言ふ春風万里しゆんぷうばんりの手紙をやである。僕の思はず瞠目だうもくしたのも偶然ではないと言はなければならぬ。
変遷その他 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
正宗院は瞠目だうもくして言ふ所を知らなかつた。しかし客の去つた後、其淳樸を賞した。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
然れども僕は先生の言を少しも解することあたはざりし故、唯かみなりに打たれたるおしの如く瞠目だうもくして先生の顔を見守り居たり。先生もまた僕の容子ようすに多少の疑惑を感ぜられしなるべし。
その頃の赤門生活 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
かう言ふ先生に瞠目だうもくするものは必しも僕一人には限らないであらう。
これは水上滝太郎みなかみたきたらう君の「友はえらぶべし」の中の一節である。僕はこの一節を読んだ時に少しも掛値かけねなしに瞠目だうもくした。水上君の小説は必ずしも天下の女性の読者を随喜ずゐきせしめるのに足るものではない。
変遷その他 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)