めくば)” の例文
「なんだい、あの音は」食事のはしを止めながら、耳に注意をあつめるしぐさで、行一は妻にめくばせする。クックッと含み笑いをしていたが
雪後 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
「な……何をするんだ!」と私は呆気にられたが、ユアンは私にめくばせしながら人差指を自分の唇に当て、黙っていよ、という素振りをした。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
と、重蔵も千浪にめくばせして、素気なく席を立ち上がり、引き止める間もなくスススと廊下のむこうへ出て行ってしまった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とにかくセリファンとめくばせをした時には、いつもの気難しい顔が、どうやら少しは晴れやかになったように思われた。
大殿樣は又言を御止めになつて、御側の者たちにめくばせをなさいました。それから急に苦々しい御調子で
地獄変 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
が、すべての眼は、他の眼とめくばせもせずに、侯爵閣下を眺めた。たぶん、彼には良心を悩ます幽霊などというものがいるかどうかということを観察するためであったのだろう。
腰元たちは互いにめくばせをし頷き合った。女性たちの間にあって自分が誰よりも深く熱烈に愛されているなどと宣言することは月評家たちの前で自作の朗読をする小説書き同様からきめに遭う。
若殿女難記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
すぐうしろにいる兵隊の方へ軽くめくばせしてから
大殿様は又言を御止めになつて、御側の者たちにめくばせをなさいました。それから急に苦々しい御調子で
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
御方のあわただしいめくばせにグッと後の語句をのんで、けわしい二人の雲行きを側からじっとみつめていると、重左は老骨の頑固さを、くわッといからせた眼に現して
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
真黒な濃い眉をした検事は、まるで『おい、君、あちらの部屋へ行こう、ちょっと話があるから』とでも言うように、左の眼で絶えずめくばせをしているような癖がある。
と、のッけから、散々に我鳴り立てるので、独鈷の仁三が、しきりにめくばせしたかいもなかった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二弦にげんの手軽なバラライカで、その音もゆかしい爪弾つまびきを聴きに集まる、胸や首筋くびすじの白い娘たちにめくばせをしたり、口笛を吹いたりする、あの二十歳はたち前後のおしゃれで剽軽ひょうきんな若者たちの装飾かざりでもあり