痰唾たんつば)” の例文
哲学者はそれには何とも答へないで、いきなり痰唾たんつば富豪かねもちの顔に吐きかけた。富豪かねもち西洋茄子トマトのやうに真紅まつかになつておこつた。
カッとお宮の横着そうな面につばきを吐きかけて、横素頬よこずっぽうを三つ四つ張り飛ばして、そのまま思いきろうと咽喉のどまで出しかけた痰唾たんつばをぐっと押えてまたみ込み
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
文「さア大伴氏、其許そこもとは舅の敵の其の上に、よくも此の文治が面部にきずを負わし、痰唾たんつばまで吐き掛けたな、今日こそ晴れて一騎討の勝負、く/\打って来い」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
転んだ小虎は古杭で、横腹を打って、顛倒てんとうした。それをお鉄は執念深くも、足蹴あしげにして、痰唾たんつばまで吹掛けた。竜次郎はつくづく此お鉄の無智な圧迫に耐えられなく成った。
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
『じゃあ云います。……云いにくい事なんですが、今朝、師匠が井戸端で、顔をお洗いになった後、ひょいと流して見ると、師匠の吐いた痰唾たんつばの中に、赤いものがまじっていました』
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)