玫瑰まいかい)” の例文
支那では玫瑰まいかいは園中の物であるらしく、花の艶麗ははるかに蔓荊にすぐれているが、われわれの間ではかつて野生の境遇を出たことがないようである。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
玫瑰まいかいの芳烈なるかおりか、ヘリオトロウプの艶に仇めいた移香うつりがかと想像してみると、昔読んだままのあの物語の記憶から、処々しょしょの忘れ難い句が、念頭に浮ぶ。
『新訳源氏物語』初版の序 (新字新仮名) / 上田敏(著)
が、国を憂うる心は髪にした玫瑰まいかいの花と共に、一日も忘れたと云うことはない。その明眸めいぼうは笑っている時さえ、いつも長い睫毛まつげのかげにもの悲しい光りをやどしている。
金将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
海岸を歩けば、帆立貝ほたてがいからが山の如く積んである。浅虫で食ったものゝ中で、帆立貝の柱の天麩羅てんぷらはうまいものであった。海浜随処に玫瑰まいかいの花が紫に咲き乱れて汐風にかおる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
薔薇ばら玫瑰まいかい(日本の学者はハマナシ、すなわち誤っていうハマナスを玫瑰まいかいとしていれど、それはむろん誤りである)も同国人にとうとばれ、その花に佳香かこうがあるので茶に入れられる。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
玫瑰まいかいの茶をすすりながち、余君穀民が局票の上へ健筆を振うのを眺めた時は、何だか御茶屋に来ていると云うより、郵便局の腰掛の上にでも、待たされているようないそがわしさを感じた。
上海游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)