犀利さいり)” の例文
日頃の俊敏な、いかにも犀利さいりな表情はあとかたもなく消え、恐怖悔恨にうちのめされて、ほとんど白痴そのままの顔つきをしていた。
松風の門 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その犀利さいり明晳めいせきな難技巧征服の演奏と、マレシャル固有の神経の行き届いた冷たい美しさ、それに一種の詩が人を魅了するだろう。
幸田露伴にも『枕頭山水』の名作があり、キビキビした筆致で、自然でも、人間でも、片っぱしからきめつけるような犀利さいりな文章を書いている。
で、彼は驚くべく犀利さいりな透視力を以って各自の顔を通して性格を読み取り、それをいつまで見ていても飽きることのない生きた表情として描き出した。
レンブラントの国 (新字新仮名) / 野上豊一郎(著)
ド・モウパスサン。——ギイ・ド・モオパスサンと云ふ作家だがね。少くとも外に真似手のない、犀利さいりな観察眼を
山鴫 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
官衙かんがや商社における組織や行政の不備や吏員の怠慢に対しても犀利さいりな批評と痛切な助言を加えたい。
一つの思考実験 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
従うて著者は決して満幅の信頼を期待してはいない。むしろ犀利さいりなる眼光をもってこの書の弱点を指摘せられる読者の、できるだけ多からんことを熱望しているのである。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ただし、彼には永年多くの種類の人間との接触から得た経験的智識があり、それと練磨した現実を見破る犀利さいりな眼光が備えられていて、客から与えられる話題のテーマに就て底の底を語り
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
自己の否定する心の犀利さいりを矜ったり、いたずらに他と標異することを好んだり、もしくは自己の不道徳な生活を弁護したりすることが懐疑の正当な動機であることができないのは明白なことである。
語られざる哲学 (新字新仮名) / 三木清(著)
道之進の才子肌な点には不快を感じても、犀利さいりな頭脳と進退のみごとさには敬服していた。
夜明けの辻 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼の犀利さいりな眼にはおそらく人間のあらゆる偏見や痴愚が眼につき過ぎて困るだろうという事は想像するに難くない。稀に彼の口から洩れる辛辣しんらつ諧謔かいぎゃくは明らかにそれを語るものである。
アインシュタイン (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
現にレジンスキイと云ふ、確か波蘭土ポオランド系の詩人の如きは、彼の毒舌に翻弄ほんろうされた結果自殺を遂げたと云はれてゐる。が、彼の批評を読めば、精到の妙はないにしても、犀利さいりの快には富んでゐると思ふ。
点心 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)