物見櫓ものみやぐら)” の例文
それをお物見櫓ものみやぐらの上から見おろし乍ら、よろこばしげに君侯の呼ばわり励ます声が、冴えざえと青白く冴えまさっている月の光の中を流れて伝わった。
十万石の怪談 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
沈黙の巨人のように、岡崎城の物見櫓ものみやぐらが、木枯しの中に、突っ立っている。狭間はざま狭間にも、こよいは、灯影が見えない。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そこで、屋敷をお城のように造り、濠をめぐらし、東西南北に物見櫓ものみやぐらをあげ、濠にはハネ橋を掛けて——」
しかし、その木々のうえには、古い物見櫓ものみやぐらがいまもなお見え、前述のかつての城主と同様、なんとか頭を高くもたげようとし、近隣の地方を見おろしているのである。
人も知る山城国の四明ヶ岳にある含月荘がんげつそうは、さきの黄門松平龍山公の隠居所であって、そこの怖ろしく高い物見櫓ものみやぐらか塔のような楼上に、夕雲のまつわる頃、一点の灯火あかりがポチとつくと
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この人たちは来客を待ちわび、そしてまたそれ以上に御馳走ごちそうを待ちこがれているのだ。また、尊敬すべき小男の男爵に話をもどさなければならない。彼は物見櫓ものみやぐらの上で吹きさらしになっている。
或る日、物見櫓ものみやぐらの下で、すれちがッた一少年がある。城内には小姓や下屋しもやわらべも多い。しかし、どこか眉目みめが違う。右馬介は「この和子だな」と直感したので、すれ違いざま、こころみに
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)