版行はんこう)” の例文
おおかたどこで、どんな人に、幾人いくたりおうとも、版行はんこうで押したような口調で御前さん働く気はないかねを根気よく繰返し得る男なんだろう。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一通りの定まった版行はんこうで押した項目だけを暗誦的に説明してしまえばそれでもうおしまいで先様御代りである。
拵える奴もなかろう、拵えたって世間へ持って出せるものではねえが、何しろ今のような時勢だから、公方様くぼうさまの悪口でも何でもこうして版行はんこうになって出るんだ
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
国体をあきらかにするための浩瀚こうかんな書物の版行はんこう湊川みなとがわのご建碑、事々にけっこうなお企てと思っておる。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
仕方がないから、なお三四回書面で往復を重ねて見たが、結果はいつも同じ事で、版行はんこうで押したようにいずれ御面会の節を繰り返して来るだけであった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その遺失品係りのいややつだ事って——実に不親切で、形式的で——まるで版行はんこうにおしたような事をぺらぺらと一通り述べたが以上、何を聞いても知りません知りませんで持ち切っている。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
したがってふるき拘泥こうでいしてあらゆる未来の作物にこれらを応用して得たりと思うは誤りである。死したる自然は古今来ここんらいを通じて同一である。活動せる人間精神の発現は版行はんこうで押したようには行かぬ。
作物の批評 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)