燕返つばめがえ)” の例文
さッきから物蔭で、いさい残らず聞きすましていた道中師の伊兵衛、いきなり燕返つばめがえりにお蝶のふところへつかッて行って
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
他流でいうところの「燕返つばめがえし」、一刀流で云う時は、「金翅鳥王剣座きんしちょうおうけんざ」——そいつで切って棄てたのであった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それが間髪を容れぬすばやさで、剣術関係の術語でいうところの「燕返つばめがえし」といったような呼吸であった。
思い違い物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
しかしその瞬間に葉子は燕返つばめがえしに自分に帰った。何をいいかげんな……それは白々しらじらしさが少し過ぎている。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
その瞬間燕返つばめがえしに、見も知りもせぬ路傍の人に与えるような、冷刻な驕慢きょうまんな光をそのひとみから射出いだしたので、木部の微笑は哀れにも枝を離れた枯れ葉のように
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
しかし、上段へもっていって斬りおろしたとみた刀は、三転して——たぶん燕返つばめがえしとでもいうのだろう、ぎらっと逆に返ったとみるや、幹太郎の棒をほぼ半ばから切断した。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
たちまち燕返つばめがえしに死から生のほうへ、苦しい煩悩ぼんのうの生のほうへ激しく執着して行った。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)