潜々さめざめ)” の例文
叔父は寝台より辷り降り「オオ我が娘で有ったのか」と、抱き上げて熱い涙を真に雨の様に秀子の背に潜々さめざめと降らせ落とした。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
昨夜ゆうべ鶴原未亡人に丸うつしと思ったのが、あくる朝は似ても似つかぬ顔になっていたこともあった。その時私は潜々さめざめと泣き出して女に笑われた。
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
夫が帰ってくると、ヒルミ夫人はひと目もはばからず、潜々さめざめと涙をながして、たくましき夫の胸にすがりつくのであった。
ヒルミ夫人の冷蔵鞄 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
橘はやっと二人のむくろのある土手のうえに辿たどりつくと、そのまま、草の上に膝をついて潜々さめざめすすり泣いた。
姫たちばな (新字新仮名) / 室生犀星(著)
つと乗出のりいだしてそのおもてひとみを据ゑられたる直行は、鬼気に襲はれてたちまち寒くをののけるなり。つくづくと見入るまなこを放つと共に、老女は皺手しわでに顔をおほひて潜々さめざめ泣出なきいだせり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)