湧然ゆうぜん)” の例文
そのうちに、おのずから湧然ゆうぜんとして味がわかってくる。そういうやり方が、先生と一座していると、自然にうつってくるのであった。
露伴先生の思い出 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
それとともにお艶に対する新しい憐憫が湧然ゆうぜんとこころをひたして、眼頭おのずから熱しきたるのを禁じ得なかった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そして自意識がそのように満足した時にのみ人の心に湧然ゆうぜんと起こって来る一種の愛情——すべての悲劇的運命の中に生死をして真剣に生きている人々
ありがたい、もったいない、すまない、という感謝報恩の心は、湧然ゆうぜんとして、ほとばしり出るのです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
暗い暗い、気味悪く冷たい、吐く気息も切ない、混沌迷瞑こんとんめいめい、漠として極むべからざる雰囲気の中において、あるとき、ある処に、光明を包んだ、つや消しの黄金色の紅が湧然ゆうぜんとして輝いた。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
皆三を思ひ切り罵倒ばとうしてやりい気持ちがお涌に湧然ゆうぜんとして来た。
蝙蝠 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
そしてその作品の構図を思いつくや否や、楽想がくそう湧然ゆうぜんとしていてきた。数か月来貯水池にたまっていた水量が、堤防を破って一挙に流れ出すのにも似ていた。彼は一週間の間自分の室を出なかった。
それを聞いたときに湧然ゆうぜんと起こってくる気分、それに伴う連想などが、全部違っているのである。
松風の音 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
と忠相がひきとると、ふたりは湧然ゆうぜんと声を合わせて笑って、切りおとすように泰軒がいった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)