游弋ゆうよく)” の例文
すなわち、水域に游弋ゆうよくすること三日……その三日目も空しくまさに暮れなんとして、模糊たる夕靄ゆうもやの海上一面をおおわんとしている頃であった。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
尺八は少し離れたところの机の上にあって、膝のわきには二本の刀が、これもとろにつながれたいかだのようにおだやかに、一室の畳の上に游弋ゆうよくしている。
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
私は網膜のなかで光線と色調とアリアン人種と、demi-mondaines の游弋ゆうよく隊とが衝突して散った。
踊る地平線:09 Mrs.7 and Mr.23 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
味をしめた利権占領軍は、南風をうかがって、次の獲物——日本の近海を、游弋ゆうよくしつつあると、説く者がある。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかも、クロクロ島を沈没させ、私を捕虜にしようとした憎むべき無礼なる米連艦隊は、なお付近を游弋ゆうよくしており、もし自分の推測にまちがいないならば北上して日本本土をこうとしているのだ。
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ちょうど総司令官大侯に指揮された軍隊が出動している間、一艦隊は地中海を游弋ゆうよくしていた。そして前述のとおり、その艦隊に属していたオリオン号は荒海にいたんでツーロン港に帰ってきたのである。
「ここ両三日来、見つけない怪船が、幾十となく、島前どうぜんの沖を游弋ゆうよくしている」
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
楕円を描いて游弋ゆうよくし跳梁をほしいままにしていたのであった。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
だが考え及ばないものか、そのまま藤棚の下へ這入って、そこにある陶器床几すえものしょうぎに腰を下ろし、亀の日向ひなたへ上がったように、ぽつねんとして、池の緋鯉ひごい游弋ゆうよくに、無為徒然な春の日を過ごしています。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)