混血児あひのこ)” の例文
旧字:混血兒
おれは昨夜ゆうべあの混血児あひのこの女がはうりこんだ、薔薇ばら百合ゆりの花を踏みながら、わざわざ玄関まで下りて行つて、電鈴の具合ぐあひを調べて見た。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
それと……ほら、あたし混血児あひのこでせう、なんだか、それが、はつきりは云へないけれど、一枝叔母さま、おいやなんぢやないかと思ふわ……
落葉日記 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
即ちこれを日本人に応用すると混血児あひのこになつてしまふ。嫌ひといふではないが絵にするには少し申分がある。眼のパツチリした、鼻の高い、所謂世間で云ふ美人は、どうも固すぎると思ふ。
女の顔:私の好きな (新字旧仮名) / 黒田清輝(著)
その顔は丸顔で色の白いことは西洋人の肌そつくりで、小秀よりか遥かに白いもので、混血児あひのこで無いかと思はれる程である。髪は波形に縮れて居るが漆のやうに真黒で、皮膚の色によく配合して居る。
隣人の宣教師、混血児あひのこのベンさん
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
それから毎日夕方になると、必ず混血児あひのこの女は向うの窓の前へ立つて、下品な嬌態けうたいをつくりながら、慇懃いんぎんにおれへ会釈ゑしやくをする。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
つまり、彼女が混血児あひのこであることは、二人の結婚の障碍であると勝手にきめてゐたのである。
落葉日記 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
その内に或夕方、ふとおれが向うの二階の窓を見ると、黄いろい窓掛をうしろにして、私窩子しくわしのやうな女が立つてゐる。どうも見た所では混血児あひのこか何からしい。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「さつきね、後ろのボックスで、誰かが、混血児あひのこつて云つたのが聞えたからでせう」
落葉日記 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
アトリエには彼自身の油画あぶらゑほかに何も装飾になるものはなかつた。巻煙草まきたばこくはへた断髪のモデルも、——彼女は成程なるほど混血児あひのこじみた一種の美しさを具へてゐた。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
が、それは雪と言ふよりも人間の鮫肌さめはだに近い色をしてゐた。わたしはかう言ふ山脈を見ながら、ふとあのモデルを思ひ出した、あの一本も睫毛まつげのない、混血児あひのこじみた日本の娘さんを。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)