深夜よふけ)” の例文
足を洗おう、早く——この思想かんがえは近頃になってことはげしく彼の胸中を往来する。その為に深夜よふけまでも思いふける、朝も遅くなる、つい怠り勝に成るような仕末。
並木 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そして下男の吾郎も、それから時々深夜よふけの邸内を白い背の高い幽霊が、ふわふわと歩いているのを見たといいます。博士は九月八日の深夜よふけ書斎で殺されたのです。
幽霊屋敷の殺人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
品川から駕籠に乗んなすった時おりから深夜よふけ、女身一人、出歩こうとは大胆だが情夫おとこにあいたいの一心から、家を抜け出して来たんだな、こう目星を付けたってものさ。
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
深夜よふけの、朧に霞んだ電灯の微光うすあかりもとに、私は、それを、何も彼も美しいと見た。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
人のうめき声がしたかと思うたが、其は僻耳ひがみみであったかも知れぬ。父は熟睡じゅくすいして居るのであろう。其子の一人が今病室のあかりながめて、この深夜よふけに窓の下を徘徊して居るとは夢にも知らぬであろう。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「何、島君じゃと? 嘘を云うな。こんな深夜よふけにこんな所に、何んで島君がいるものか」云い云いじっとかして見たが、「やっ、こいつ本物だ。右衛門の情婦いろおんなの島君じゃ」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そうして薄暗くなって行くへやの中では、頭の中に、お宮の、初めて逢った晩のあの驚くように長く続いた痙攣。深夜よふけの朧に霞んだ電灯の微光うすあかりもとに惜気もなく露出して、任せた柔い真白い胸もと。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「酒手が欲しくて云っているのではごわせん、深夜よふけに坊さんを乗せるってことが……」
犬神娘 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「このような深夜よふけにこのような所で、何を泣いておられるな?」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「それに深夜よふけの坊主と来ては……」
犬神娘 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)