浮彫うきぼ)” の例文
さりげなく人物や情景のみを浮彫うきぼりにさせてゐるときには、文字どほり人情本の一頁をひもどいてゐるやうな艶冶な舞台が見事に展開された。
吉原百人斬り (新字旧仮名) / 正岡容(著)
まっ白な、あのさっきの北の十字架じゅうじかのように光るさぎのからだが、十ばかり、少しひらべったくなって、黒いあしをちぢめて、浮彫うきぼりのようにならんでいたのです。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
女にしては高く白い額に左右不揃いなまゆが不可思議な魅力をたたえ、切れの長いひとかわ目に微妙な謎を宿し、高からぬ鼻と薄過ぎぬ唇が、小さいあごを持った、しまったほおの上に浮彫うきぼりされ
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
高島田の金元結きんもとゆいなまめかしい、黒い大きな瞳を一パイに見開いた人形のような瓜実顔うりざねがおが、月の光りに浮彫うきぼりされたまま、半分以上雨樋の蔭から覗き出して、彼の姿を一心に凝視しているのであった。
笑う唖女 (新字新仮名) / 夢野久作(著)