さかな)” の例文
さかなを買うにも主人の次には猫の分を取った。残殽あまりを当てがうような事は決してなかった。時々は「猫になりたい」という影口かげぐちもあった。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
朝といえども省かない。さかなには選嫌えりぎらいをしなかったが、のだへい蒲鉾かまぼこたしんで、かさずに出させた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
隣りの猫にさかなを取られた不平咄、毎日の出来事を些細の問題まで洗いざらい落なく書き上げておる。
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「茗水渓頭買小船。」吾妻森あづまのもりで陸に上つて蓑笠を買つた。「吾妻祠畔境尤幽。出艇間行野塢頭。筍笠莎蓑村店買。先生将学釣魚流。」網を打たせ、えものさかなにして飲んだ。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
この頃はさかなを食する事まれなれば残りをまする事もしばしばあらざればと心の中に思ひたり
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
扇形の皿には各別種のさかなを盛つてあつて、客は卓を旋廻して好む所の殽を取ることが出来た。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
準平は平素県令国貞廉平くにさだれんぺいの施設にあきたらなかったが、宴たけなわなる時、国貞の前に進んでさかずきを献じ、さて「おさかなは」と呼びつつ、国貞にそむいて立ち、かかげてしりあらわしたそうである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)