森閑しん)” の例文
森閑しんとした寂寞せきばくが彼を押しつつみ、ただ時計のチクタクばかり、闇の中でせわしげに時を刻んでいたが、彼にはその時刻もわからなかった。
孤独 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
が、神聖の地域として、教主の宮川覚明が、許さない限りは寄り付くことの出来ない、この岩山の洞窟の入り口——そこの辺りには人気がなくて、森閑しんとして寂しかった。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ただ彼自身の空虚になった霊魂と、無力になった肉体とが草原の中に投げ出されているのを感ずるばかりであった。彼はそうした感じの中に、森閑しんとなった耳を、澄ますともなく澄ましていた。
童貞 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そしてべてが森閑しんと鎮まりかえった。
流血船西へ行く (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
街道は森閑しんと茂った森にそうていて、人っ子一人通らない。鳥はみなねぐらにかえってしまった。向うの村は大きなどす黒い汚点しみのように見えている。
乞食 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
森閑しんとして人気もない。勿論燈火ともしびも洩れて来ない。何となく鬼気さえ催すのであった。
弓道中祖伝 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)