くしけ)” の例文
わずか半日半夜のうちに、十二の夏疫痢えきりで死んで行った娘の畳の上まで引いた豊かな髪を、味気ない気持で妻がいとおしげにくしけずってやっていたのも、その一室であった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
頭髪をくしけずる音がした。シュツシュツという幽かな音! が、それもすぐ止んだ。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
劇場から帰ってきて見ると死者のひげは綺麗にられ、顔も美しく化粧され、髪も香水がつけてくしけずられてあり、新しい礼装をさせられて花輪を胸に載せ、ひつぎの中に横たわらせられてあった。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
粗野な窮惜大きゅうそだいとして終始し、——くしけずらぬ獅子の髪、烱々けいけいたるわしの眼、伸び放題の不精髯ぶしょうひげ衣嚢かくし一杯に物を詰めて、裏返しになった上着、底のいたんだくつ——そういった姿でウィーンの内外を横行し
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)