桜花おうか)” の例文
旧字:櫻花
折しも弥生やよいの桜時、庭前にわさき桜花おうかは一円に咲揃い、そよ/\春風の吹くたびに、一二輪ずつチラリ/\とちっる処は得も云われざる風情。
そしてあたりが鏡だったせいか、まるで、この部屋一杯に蛾が無類に充満し、あたかも散りしきる桜花おうかのように、春の夢の国のように、美しき眺めであった。
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
最初河水かすい汎濫はんらんを防ぐために築いた向島の土手に、桜花おうかの装飾を施す事を忘れなかった江戸人の度量は、都会を電信柱の大森林たらしめた明治人の経営に比して何たる相違であろう。
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
春三月、桜花おうかの候、琵琶の湖水静かである。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いそがしき世は製造所の煙筒えんとう叢立むらだつ都市の一隅に当ってかつては時鳥ほととぎす鳴きあしの葉ささやき白魚しらうおひらめ桜花おうか雪と散りたる美しきながれのあった事をも忘れ果ててしまう時、せめてはわが小さきこの著作をして
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)