栂指おやゆび)” の例文
武蔵は、栂指おやゆびの爪を噛んで、じいっと、矢の飛ぶのを見ていたが、突然、柵のほうへ走って、飛鳥のように外へ躍り越えた。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
誰かが戯談ぜうだん半分にそばからわめいたものだ。すると、酔つたまぎれの久米氏はいきなり栂指おやゆびをもつて蜜柑をむりやりに口の中に押し込んでしまつた。
とうとう四日目の朝飯の給事きゅうじをさせている時、汁椀の中へ栂指おやゆびを突っ込んだのを見て、「もう給仕はしなくても好いから、あっちへ行っていておくれ」
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
不意に呼びかけられて、右手に編笠をげるうちにも、左手は一刀の鯉口を、こう栂指おやゆびで押えていようといったたしなみは、かたき持ちか、要心深さがさせるわざか、とにかく容易ならぬ心掛の若者です。
十字架観音 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
ピクピクと何気なく栂指おやゆびに力を込めて動かしてみた瞬間、思わず顔をおおうて、一思いに膝から下を切り取ってしまいたいほどの絶望と懊悩とを感じたことであったが、眼を閉じるとその時の苦しみが
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
ちょうど伸びたひげをだしに、それとなく、様子を見に来たわけだったが、仮に、相客がいないで、すぐ問題の話にかかったとしても、相手の仁吉は、ちょっと栂指おやゆびと人差指で
治郎吉格子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)