たく)” の例文
ボウルドの前へ出ようとして中戻ちゅうもどりをしたり、愚図ぐず々々まごついてる間に、たくが鳴って、時間が済むと、先生はそのまんまでフイと行ってしまうんだッて。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
毎夕夜番を置きて、時間ごとにたくをうちて四隣を一巡せしむるがごときは、多少火災、盗難を防ぐの一助となるべきも、その実、安心税を払うものとなるべし。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
(ため息をつく。さえたたくの音がきこえてくる)あ、(耳をすます)庫裏くりで夕食を知らせる柝が鳴っている。(仏壇の前にくず折れる)あゝ心のなかから平和が去った。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
諸僚佐ニ約束シ毎朝第一たくヲ撃ツヤ皆蓐食じょくしょくシテ装ヲ結ビ、第二柝ニシテ啓行ス。杉戸駅ヲ過ルヤ微雨にわかニ至ル。栗橋駅ニいたレバ則チ午ニ近シ。栗橋中田ノ二駅ハ東寧河とねがわヲ界シテ東西相望ム。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
たくが烈しく打ち鳴らされ、松明たいまつが八方へ飛び廻り、注進が四方へ伝えられた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
オヤお昼飯ひるたくでしょう。サア行きましょう。(かけだす音)バタバタバタ
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
たくの音は街の胸壁に沿つて夜どほし規則ただしく響いてゐた。
測量船 (新字旧仮名) / 三好達治(著)
狐が石を投げたくをうち、あるいは火を吐き戸をたたくというが、その真偽は判定し難きも、実際目撃したりという話を聞くに、石を投ぐるは後足をもって石をけとばすのであるとのこと。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
峽をゆくたくの音あはれ艸まくら
寒林小唱 (旧字旧仮名) / 三好達治(著)